接客業でクレームを受けると「自分の対応が悪かったのではないか」と考え、仕事が終わってからも引きずってしまうことがあります。
ただし、クレームを気にしないことは、お客様の意見を無視することではありません。事実と改善点は受け止める一方、相手の怒りや理不尽な要求まで自分の責任として抱えないことが大切です。
本記事では、接客業のクレームを気にしないための方法や正しい対応、仕事を辞めるか迷ったときの判断基準を解説します。
接客業のクレームは必要な部分だけ受け止める
クレームを受けても落ち込まないようにするには「何を反省し、何を気にしなくてよいのか」を分けて考える必要があります。
内容を確認せず、すべてのクレームを「相手が悪い」と片づけてしまうと、接客の改善につながりません。一方で、お客様の言葉をすべて自分への評価として受け止めれば、精神的な負担が大きくなります。
まずはクレームの内容を整理し、自分や職場が改善すべき部分と、それ以上抱える必要がない部分を切り分けましょう。
正当な指摘は改善点として受け止める
説明不足や確認漏れ、言葉遣いなど、自分の対応に改善できる点があった場合は、次回の行動に反映させることが大切です。
例えば、ホテルのチェックイン時に朝食時間の案内を忘れ、お客様から指摘を受けたとします。この場合は、「次回からチェックイン項目を一つずつ確認する」と具体的な改善策を決めます。
ただし、必要な反省をした後まで、自分を責め続ける必要はありません。反省の目的は、自分を否定することではなく、同じ問題を起こしにくくすることです。
「次はどうするか」が決まった時点で、今回のクレームに対する振り返りは一度終えてよいでしょう。
お客様の不満と自分の人格は切り離して考える
クレームを受けたときに「自分は接客業に向いていない」「人として否定された」と感じる人もいます。
しかし、お客様が不満を感じている対象は、目の前にいる従業員本人とは限りません。商品の不具合や待ち時間、料金、予約システム、会社の規則、設備の古さなど、従業員個人では解決できない問題もあります。
特にホテルのフロントスタッフは、客室やレストラン、清掃、予約サイトなど、別の部署や事業者に起因する問題についても最初の窓口になることがあります。
自分に直接の原因がなくても謝罪や説明を求められるため「自分が怒られたこと」と「自分に落ち度があったこと」を混同しないようにしましょう。
暴言や過剰な要求は個人で抱えず組織に引き継ぐ
お客様から寄せられる意見や要望のすべてが、カスタマーハラスメントに該当するわけではありません。商品やサービスに問題があれば、厳しい指摘であっても正当な申し入れとなる場合があります。
職場におけるカスタマーハラスメントとは、顧客等の言動であって、従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、それによって従業員の就業環境が害されるものをいいます。具体的な言動が該当するかどうかは、内容や手段、頻度、経緯などを踏まえて個別に判断する必要があります。
例えば、次のような行為は、内容や手段、頻度などによってカスタマーハラスメントに該当する可能性があります。該当するかどうかを現場の従業員だけで判断せず、責任者へ報告しましょう。
- 人格を否定するような暴言を繰り返される
- 土下座や従業員の解雇を要求される
- 長時間にわたって拘束される
- 契約にない無料サービスを繰り返し要求される
- 従業員の個人情報や連絡先を聞き出そうとされる
- 暴力や器物損壊、脅迫にあたる行為がある
対応を引き継ぐことは、仕事を放棄することではありません。自分と周囲の従業員を守り、ホテルとして適切な判断を行うために必要な対応です。
接客業のクレームを気にしないための7つの方法
クレームが頭から離れないときは、単に「忘れよう」と考えるだけでは気持ちを切り替えにくいものです。
クレームの捉え方や振り返り方を変え、仕事と私生活を区切るための行動を取り入れましょう。
1.クレームの内容を「事実」と「相手の評価」に分ける
クレームを受けた後は、相手から言われた言葉をそのまま自分への評価として受け止めないことが大切です。
まず、内容を「確認できる事実」と「相手の主観的な評価」に分けてみましょう。例えば、「予約していた部屋と違う部屋に案内された」という内容は、予約記録や対応履歴を見れば確認できる事実です。
一方「こんなミスをする人は接客業に向いていない」という言葉は、お客様個人の評価であり、客観的な事実ではありません。事実については原因を確認して改善します。しかし、感情的な勢いで発せられた言葉まで、自分の能力や人格を示すものとして受け止める必要はありません。
2.反省点を具体的な行動に絞って振り返りを終える
真面目な人ほど、「別の言い方をすれば怒られなかったのではないか」「もっと早く上司を呼ぶべきだったのではないか」と、対応を何度も振り返る傾向があります。
しかし、過去の会話を繰り返し思い返しても、すでに起きた出来事を変えることはできません。反省点がある場合は、次回実行する行動を少数に絞りましょう。
例えば、「分からないことを推測で答えず、責任者に確認する」「お客様の話を遮らず、最後まで聞いてから説明する」などです。
3.お客様の怒りの強さと自分の責任の大きさを混同しない
大声で叱責されたり、強い言葉を投げかけられたりすると、「自分は重大な失敗をした」と感じやすくなります。
しかし、お客様の感情の強さと、従業員側の責任の大きさは必ずしも一致しません。同じ問題が起きても、冷静に改善を求める人もいれば、声を荒らげる人もいます。感情の表し方は、お客様の性格や当日の状況にも左右されます。
自分だけでは判断できない場合は、上司や同僚に状況を説明し、第三者の意見を聞くことも有効です。
4.クレームの内容を上司や同僚に共有する
クレームを受けたら、対応が終わった後に上司や同僚へ共有しましょう。誰かに話すことで気持ちを整理できるだけでなく、自分の対応に問題がなかったかを客観的に確認できます。
「その対応で問題なかった」「同じお客様から以前にも同様の要求があった」と分かれば、一人で悩み続ける必要がなくなることもあります。
またホテルでは、滞在中のお客様に別の従業員が対応する可能性があります。フロント、レストラン、客室係などで情報が共有されていなければ、お客様に同じ説明を繰り返させたり、従業員ごとに異なる回答をしたりするおそれがあるものです。
職場のルールに従い、業務上必要な範囲で事実や対応内容、今後の方針を記録し、次の担当者へ引き継ぎましょう。
5.勤務が終わったら身体の緊張を解く
クレーム対応中は、気持ちだけでなく身体も緊張しています。クレーム対応の場面を頭の中で繰り返し思い返していると、気持ちや身体の緊張が長引くことがあります。
仕事から私生活へ切り替えるためのルーティンを決めておきましょう。制服から私服に着替える、ゆっくり深呼吸する、帰宅後に入浴する、軽く散歩するなど、特別な方法でなくても構いません。
「勤務が終わったら温かい飲み物を飲む」「帰宅中は仕事に関係のない音楽を聴く」など、毎回同じ行動を取るのも一つの方法です。
6.一件のクレームだけで自分の接客全体を評価しない
否定的な出来事は、肯定的な出来事よりも注意や記憶に残りやすいことがあります。そのため、多くのお客様に問題なく対応していても、一件のクレームを受けただけで「自分は接客ができない」と感じてしまうことがあります。
しかし、一件のクレームだけで、これまでの接客すべてを評価することはできません。お客様から感謝された経験やアンケートの評価、同僚や上司からの評価なども、あなたの接客を判断する材料です。
クレームを受けた日は、これまでにうまく対応できた場面も思い出してみましょう。自分を無理に肯定するのではなく、否定的な一件だけを過大評価しないことが目的です。
7.自分が対応する範囲と上司へ引き継ぐ範囲を決める
クレームを引きずりやすい人には、「最後まで自分で解決しなければならない」と考える傾向があります。
しかし、接客担当者がその場で判断できる範囲には限界があります。ホテルであれば、返金や宿泊料金の割引、客室の無料アップグレード、系列ホテルへの振り替えなどは、責任者の承認が必要になることがあります。
自分の権限を超える要求に対して、その場を収めるために約束してしまうと、後から対応できず、問題を大きくするおそれがあります。どのような場合に責任者を呼ぶのか、あらかじめ職場のルールを確認しておきましょう。
クレームを受けた直後に取るべき対応
クレームを気にしないためには、受けた後の考え方だけでなく、対応中にできることを理解しておくことも重要です。
自分なりの対応手順を持っていれば、突然怒られたときにも落ち着いて行動しやすくなります。
まずはお客様が不満を感じた事実を受け止める
お客様が話している途中で反論したり、すぐに自社の正当性を説明したりすると、「話を聞いてもらえない」と感じさせる可能性があります。
まずは、お客様が何に不満を感じているのかを聞きましょう。この段階では、事実関係が分からないまま全面的に非を認める必要はありません。
「ご不快な思いをおかけし、申し訳ございません」「状況を確認いたしますので、詳しくお聞かせいただけますか」など、不快な思いをさせたことへのお詫びと、確認する姿勢を伝えます。
何が起きたのかを具体的に確認する
お客様の話を聞きながら、問題が起きた日時や場所、予約内容、担当者、実際に提供されたサービスなどを整理します。
「何に困っているのか」「どのような対応を求めているのか」も確認しましょう。
相手の言葉が感情的になっている場合でも、解決に必要な事実を一つずつ確認することが大切です。
その場で判断できない要求は約束しない
クレーム対応では、早く場を収めたいという気持ちから、お客様の要求をすぐに受け入れたくなることがあります。
しかし、権限がないにもかかわらず返金や無料提供を約束すると、後から撤回しなければならず、信頼をさらに損ねる可能性があります。
その場で判断できない場合は、「私の権限では判断できないため、責任者に確認いたします」と伝えましょう。
即答しないことは、対応を拒否することではありません。確認が必要であることと、いつまでに回答できるのかを説明することが大切です。
暴力や脅迫がある場合は一人で対応を続けない
暴力、脅迫、物を投げる行為、身体への接触などがある場合は、お客様への接客よりも、従業員と周囲の安全を優先します。直ちに上司や警備担当者へ連絡し、状況によっては警察への通報も必要です。
暴言が続く場合や、対応が長時間に及ぶ場合も、一人で耐え続けるべきではありません。
クレームが頭から離れなくなる理由
同じクレームを受けても、すぐに気持ちを切り替えられる人もいれば、数日間引きずる人もいます。
クレームを気にしてしまうことは、必ずしも接客業に向いていない証拠ではありません。なぜ頭から離れないのかを理解すると、自分を責めずに対処しやすくなります。
責任感が強い人は、自分の責任を広く捉えてしまうことがある
仕事に真剣に取り組んでいる人ほど「お客様を満足させられなかった」「ホテルの評価を下げてしまった」と感じやすくなります。
また、普段から周囲に配慮している人は、相手を怒らせたこと自体に強い罪悪感を抱くことがあります。
責任感の強さが、クレームを引きずる一因になることもあります。ただし、責任感と、自分に関係のない問題まで背負うことは異なります。責任を果たすとは、必要な報告や改善を行うことであり、いつまでも苦しみ続けることではありません。
正解が分からないまま対応が終了することがある
接客には、あらゆる状況に通用する一つの正解があるわけではありません。お客様によって、求める説明の詳しさや距離感、言葉遣いは異なります。同じ対応をしても、満足する人もいれば、不満を感じる人もいるでしょう。
そのため、対応が終わった後も「別の答え方ならうまくいったのではないか」と考え続けやすくなります。
自分だけで正解を探し続けるのではなく、上司や同僚と対応を検証し、職場として妥当だったかを確認しましょう。
ホテルでは口コミや再訪時の対応まで意識しやすい
ホテルのクレームは、その場だけで終わらないことがあります。
お客様が宿泊中であれば、館内で再び顔を合わせる可能性があります。口コミサイトやSNSへの投稿、本社や予約サイトへの連絡をほのめかされるケースもあるでしょう。
「低い評価を投稿されたらどうしよう」「次の勤務でも対応しなければならないかもしれない」と考えると、仕事が終わっても緊張が続きます。
こうした問題を一人で管理することは困難です。再対応が必要な場合は責任者と方針を決め、勤務するスタッフ間で情報を共有しましょう。
クレームを気にしないために避けたい行動
クレームを受けた後の行動によっては、かえって不安や自己否定を強めてしまうことがあります。
気持ちを切り替えるためにも、次のような行動は避けましょう。
内容を確認せずに何でも自分の責任だと考える
お客様に怒られたという理由だけで、「自分が悪い」と結論づけてはいけません。
設備や制度、他部署の対応が原因である可能性もあります。自分に改善点がある場合でも、問題のすべてが自分の責任とは限りません。
まずは事実関係を確認し、個人の問題と組織の問題を分けて考えましょう。
一人で会話を何度も思い返す
クレーム対応の場面を繰り返し思い出しても、新しい事実は増えません。
一人で考え続けると、否定的な気分や自己評価が長引き、必要以上に自分を責めてしまうことがあります。
振り返る時間を決め、必要な報告や改善策の確認が終わったら、別の行動に移りましょう。
無理に忘れようとして感情を押し込める
「気にしてはいけない」「早く忘れなければ」と感情を否定すると、かえってクレームのことが頭から離れなくなることがあります。
腹が立った、怖かった、悲しかったという気持ちを持つこと自体は自然です。まずは自分の感情を認めたうえで、同僚に話す、休息を取る、身体を動かすなど、少しずつ気持ちを切り替えましょう。
お客様を一律に「クレーマー」と決めつける
クレームによる負担を減らすために、すべての厳しい意見を「理不尽なクレーム」と判断するのも適切ではありません。
商品やサービスに問題があれば、お客様が改善や説明を求めることには正当な理由があります。
また、障害のあるお客様から社会的な障壁を取り除くための申出があった場合、事業者には、負担が過重でない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。希望どおりの対応が難しい場合も、直ちにカスタマーハラスメントと判断せず、事情を確認し、代替案を含めて対応方法を話し合うことが必要です。
要求の内容や伝え方、頻度、継続時間などを踏まえ、組織として判断しましょう。
クレームのつらさが続くときは一人で抱えず相談する
クレームを受けた直後に落ち込むことは珍しくありません。
ただし、時間が経っても気持ちが戻らず、生活や仕事に影響が出ている場合は、個人の努力だけで解決しようとせず、周囲へ相談しましょう。
上司や人事担当者に対応方法を相談する
まずは、直属の上司や人事担当者に状況を伝えます。単に「クレームがつらい」と伝えるだけでなく、どのような言動を受けたのか、現在どのような影響が出ているのかを具体的に説明しましょう。
担当者の変更、複数人での対応、責任者への引き継ぎ、シフトの調整など、職場側で対策を取れる場合があります。
職場に相談しても「接客業なのだから我慢するしかない」と言われ、何の対策も取られない場合は、職場の対応体制そのものに問題がある可能性があります。
仕事や生活への影響が続く場合は外部窓口も利用する
眠れない、食欲がない、出勤前に強い不安を感じる、仕事中もクレームの場面が繰り返し浮かぶといった状態が続く場合は、専門家への相談も検討しましょう。
勤務先に産業医や相談窓口があれば利用できます。相談したことを理由に自分の弱さを責める必要はありません。
心身の不調が強い場合は、医療機関への相談も選択肢になります。無理に出勤を続けず、状態を悪化させないことが大切です。
接客業のクレームを気にしないための心構えと対処法を身につけておこう
接客業のクレームを気にしないためには、クレームの内容を事実と相手の主観に分け、必要な改善点だけを受け止めることが大切です。
反省点を具体的な行動に置き換えた後は、お客様の怒りや感情まで自分の責任として抱える必要はありません。暴言や過剰な要求を受けた場合は、一人で対応を続けず、上司や責任者に引き継ぎましょう。
クレームによるつらさが長く続く場合は、本人の考え方だけでなく、職場の対応体制も確認する必要があります。
従業員を守る仕組みがないホテルであれば、接客経験を生かせる別の職場へ転職することも選択肢の一つです。

